神に生贄を捧げる聖なる台!嵐の襲来も予言した?さいだん座
さいだん座は、夏に南の空に現れる星座です。
「さいだん座」を漢字で書くと「祭壇座」。その名の通り、神様に生贄(いけにえ)を捧げるために設けられた祭壇を表した星座です。
星座絵には、大きな炎が炊かれた洋風デザインの祭壇が描かれています。
さいだん座は非常に古くから存在する星座ではあるものの、夏空に輝く星々に埋もれてしまい、あまり目立つ存在ではありません。
しかし、古代ギリシャの船乗りたちの間では、さいだん座は「嵐の襲来を告げる星座」として広く認知されていたと伝わっています。
船乗りたちは、夜空の星たちが雲で隠されてしまう中、さいだん座だけが隠れずに姿を見せた時には、「嵐が起こる」と信じていたのです。
さいだん座の基礎情報
星座の名前 | さいだん(祭壇) |
---|---|
学名/読み方 | Ara/アラ |
略符 | Ara |
面積(順位) | 237平方度(63位) |
作ったひと | プトレマイオス・クラディオス(トレミー) |
おすすめの 観測時期 |
夏/8月頃(一部南天) |
20時南中 | 8月5日 |
隣り合った星座 |
くじゃく座 さそり座 じょうぎ座 ふうちょう座 ぼうえんきょう座 みなみのかんむり座 みなみのさんかく座 |
さいだん座の概要
さいだんの特徴
さいだん座を構成している星々には、特に目を引くものはなく、最も明るい星でも3等星です。さいだん座はどちらかといえば、周囲の星々に紛れるようにして、控えめに輝いている星座です。
さいだんの見つけ方
さいだん座を見つけるには、さそり座を目印にしましょう。1等星アンタレスを持つさそり座を見つけることは難しくないでしょう。さそり座の尾の下(南)に、さいだん座はあります。
さいだん座の星々の並びをたどってみると、「中心で折れ曲がった長方形」のようなラインが見えてくることでしょう。人によっては、「ページを開いたまま伏せられた本の形」のようにみえるかもしれません。
ただし、さいだん座は、天の川の多くの星がひしめくエリアに位置しています。そのため、「どの星がさいだん座なのか分かりにくい……」と感じる方も多いのではないでしょうか。どこにさいだん座があるのか、目を凝らしてじっくりと観察してみてください。
日本でさいだん座を観測するのであれば、夏の夜、南の空を見上げてみましょう。しかし、残念ながらさいだん座は、日本のほとんどの地域ではその姿の一部しか見ることができません。
さいだん座の全景を見るためには、沖縄県や奄美大島まで足を延ばす必要があります。もしくは、冬の時期の南半球の国々(オーストラリア、ニュージーランドなど)に行って観測するのもよいでしょう。
さいだん座の見どころ
NGC6188(散光星雲)/NGC6193(散開星団)
NGC6188 / NGC6193 © Robert Gendler & Martin Pugh / 出典:NASA
散光星雲であるNGC6188の中心では、散開星団NGC6193が明るく輝いています。
個々の星々のきらめきをじっくりと観察したいのであれば、口径10cm程度の望遠鏡を覗いてみましょう。
NGC6397(球状星団)
NGC6397 © NASA, ESA, and T. Brown and S. Casertano (STScI) / Acknowledgement:NASA, ESA, and J. Anderson (STScI) / 出典:ESA/Hubble
NGC6397は、6等星ほどの明るさを持つ球状星団です。数ある球状星団の中でも、 NGC6397は地球から非常に近い距離(およそ7,800光年)に位置する星団として知られています。
NGC6397は肉眼でもなんとかその姿を捉えることが可能ですが、細かく観測したい場合には、双眼鏡や望遠鏡(口径10cm程度)が必須です。
日本で地平線スレスレの位置で見るよりも、オーストラリアなどの南半球の国々でしっかりと観察した方が、NGC6397の美しさや迫力をより楽しめることでしょう。
さいだん座の神話・伝説
古代ギリシャ時代の詩人・アラトスは、天文詩『ファイノメイナ』のなかで、さいだん座を「犠牲を捧げるもの」とうたいました。さいだん座はたいへん古い歴史を持つ星座なのです。
さいだん座は、数多くの神話・伝説に結びつけられてきました。たとえば次のようなものです。
- バベルの塔の頂上に立つ神殿の祭壇
- クロノス神が息子のゼウスに殺害され王位を奪われると予言した祭壇
- ケンタウルスが捕らえた狼を生贄に捧げるための祭壇
- リュカオン一族がゼウスに供物を捧げるために作った祭壇
古代ギリシャには神に供物を捧げるために多くの祭壇が実在していたと考えられています。神と意思疎通するために必要な祭壇は、古代の人々にとって非常に重要なものでした。
さいだん座は、中世~近世には「トゥリブルム」(香炉)とも呼ばれていました。トゥリブルムは教会の儀式に用いられる道具です。
さいだん座は信仰と強く結びついていたのかもしれませんね。
おわりに
航海の敵である嵐の訪れを教え、水夫たちの命を守った(かもしれない)さいだん座。
その一方で、さいだん座には、「バベルの塔の頂上に建てられた祭壇」「クロノス神の殺害を予言した祭壇」「馬人のケンタウルスが、狼を生贄にするために利用した祭壇」など、仄暗くも神秘的なさまざまなエピソードも伝わっています。
天の川の中央で輝くさいだん座を眺めた時、皆さんの頭の中にはどの伝説が思い浮かぶでしょうか?
Special Thanks
「さいだん座の見つけ方」に掲載している画像の背景の星図は、ToxsoftさまのStella Theater Proを使用して作成しました。
Toxsoft: https://www.toxsoft.com/
- 沼澤茂美・脇屋奈々代 著『星座の図鑑』(2017)
- pp.41-78, 誠文堂新光社.
- 長島晶裕/ORG 著『星座の神々 全天88星座の神話・伝承』(1999)
- p.132, 新紀元社.
- 国立天文台「星座名・星座略符一覧(星座名の50音順)」(2019)
- https://www.nao.ac.jp/new-info/constellation.html 参照:2019-7-3
- Astro Commons「星座境界線」(2016)
- http://astro.starfree.jp/commons/constellation/boundary.html 参照:2019-7-8