カメレオンから逃げるハエの姿?もともとはミツバチだった?はえ座




南天に輝くはえ座は、昆虫の「ハエ(蝿)」の姿を表した星座です。
ペガススや白鳥、竜、くじらなど、ロマンあふれる美しい生き物が設定されることの多い星座の中にあって、あまりイメージの良くないはえ座は、異色の存在だといえるでしょう。
はえ座の基礎情報
星座の名前 | はえ(蝿) |
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学名/読み方 | Musca/ムスカ |
略符 | Mus |
面積(順位) | 138平方度(77位) |
作ったひと | ヨハン・バイヤー |
おすすめの 観測時期 |
春/5月下旬(南天) |
20時南中 | 5月26日 |
隣り合った星座 |
カメレオン座 ケンタウルス座 コンパス座 ふうちょう座 みなみじゅうじ座 りゅうこつ座 |
はえ座の概要
はえ座の特徴
はえ座は面積が小さいながらも、分かりやすい星座のひとつです。
はえ座の中で最も明るく輝く星は、3等星のα(アルファ)星。その他は、もうひとつの3等星と、ふたつの4等星、それ以下の星々から構成されています。
小さな砂時計のような星の並びは、羽を広げて飛ぶハエの姿に見えなくもありません。
もともとは「みつばち座」だった?
実はこの星座、「はえ座」という名前に確定するまでには、「みつばち座(蜜蜂座)」と呼ばれることもありました。
初めにはえ座を考案したのは、オランダの探検家ハウトマンと、航海士であるケイザーです。後に、ドイツの天文学者バイエルによって記された星図書『ウラノメトリア』において、はえ座はなぜか「みつばち座」と記載されました。
その後、複数の学者から「はえ座、またはみつばち座」というどっちつかずの名称で呼ばれるようになったはえ座。
フランスの天文学者ラカイユが、自分の星図の中で正式に「はえ座」として紹介したことで、いつの間にか本来の「はえ座」という名前が定着したと考えられています。ただし、この経緯にもいくつかの説があり、ハッキリとしたことは分かっていません。
ところで、はえ座のすぐ近くにはカメレオン座があります。カメレオンといえば、長い舌でハエを巻き取って食べる姿が有名です。
ふたつの星座の並びは、カメレオンが今まさに、ハエを捉えようと狙っている様子に見えるため、「みつばち座よりも、はえ座の方がしっくりくる」という意見も多くみられます。
はえ座の見つけ方
はえ座の見頃は、5月下旬です。日本ではえ座を観察しようと思ったら、沖縄県の宮古島や石垣島まで足を延ばさなければなりません。
しかし、どんなに南の地域に行ったとしても、日本国内でははえ座の全景を見ることはできないでしょう。はえ座を見るには、南半球の国へ旅行されることをおすすめします。
はえ座を見つけるには、まずみなみじゅうじ座(南十字星/サザンクロス)を探しましょう。みなみじゅうじ座は、はえ座以上に小さな星座ですが、ふたつの1等星を含む目立つ星座です。このみなみじゅうじ座よりもやや南に、はえ座が位置しています。
はえ座のそばには、前述のカメレオン座を始め、ふうちょう座やみなみのさんかく座なども見ることができます。

注意したいのが、みなみじゅうじ座の近くにはニセ十字と呼ばれる、みなみじゅうじ座に似た星の並びがあることです。ニセ十字はみなみじゅうじ座よりも暗いものの、面積が広いという特徴を持っています。
ニセ十字も南天の見所のひとつではあるのですが、はえ座を探したい時の目印は本物のみなみじゅうじ座です。しっかりと見極めるようにしましょう!
はえ座の見どころ
惑星状星雲 NGC5189

NGC5189 / NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA) / 出典:ESA/Hubble
NGC5189は、とても珍しい形をした惑星状星雲です。星から噴出されたチリやガスが、アルファベットの「S」の字を描くようにうねっている姿は、リボンや竜の姿に例えられます。
青や緑、そしてオレンジ色に光るこの幻想的な光景を楽しむためには、口径20cm以上の望遠鏡が必要です。
θ星
はえ座の前足の先に輝く二重星が、はえ座θ(シータ)星です。はえ座θ星は、高温で青白く輝く大質量の星「ウォルフ・ライエ星」として知られています。
望遠鏡(口径6.5cm前後)があれば、ふたつの星に分離して観察できます。
はえ座の神話・伝説
はえ座は17世紀~18世紀に設定された、新しい星座です。そのため、はえ座にまつわる神話・伝説は伝わっていません。
おわりに
紆余曲折を経て、星座名として認められたはえ座。
何かと嫌われがちなハエですが、カメレオンから逃れようと必死に飛んでいる様子を想像すると、なんだか少し可愛らしくも思えてきますね。
Special Thanks
「はえ座の見つけ方」に掲載している画像の背景の星図は、ToxsoftさまのStella Theater Proを使用して作成しました。
Toxsoft: https://www.toxsoft.com/
- 沼澤茂美・脇屋奈々代 著『星座の図鑑』(2017)
- pp.145-178, 誠文堂新光社.
- 長島晶裕/ORG 著『星座の神々 全天88星座の神話・伝承』(1999)
- p.202, 新紀元社.
- 国立天文台「星座名・星座略符一覧(星座名の50音順)」(2019)
- https://www.nao.ac.jp/new-info/constellation.html 参照:2019-7-3
- Astro Commons「星座境界線」(2016)
- http://astro.starfree.jp/commons/constellation/boundary.html 参照:2019-7-8