実験用の炉!天文学者が化学者へと捧げた星座ろ座
ろ座は、冬の空に見ることのできる南天の星座です。
「ろ」と平仮名で書かれても、「一体何の星座なの?」と疑問に思う方が多いかもしれませんね。ろ座の「ろ」は、漢字では「炉」と書きます。
ろ座を設定した天文学者ラカイユの星座図では、炎の灯った炉の上に、蒸気を上げるフラスコが乗せられている様子が描かれています。
この炉は、炊事作業に使われるかまど(竈)のように見えますが、用途は全く異なります。ろ座は、科学の実験のために作られた炉(=実験炉)をモチーフにした星座なのです。
ろ座の基礎情報
星座の名前 | ろ(炉) |
---|---|
学名/読み方 | Fornax/フォルナックス |
略符 | for |
面積(順位) | 398平方度(41位) |
作ったひと | ニコラ・ルイ・ド・ラカーィユ |
おすすめの 観測時期 |
冬/12月下旬(南天) |
20時南中 | 12月23日 |
隣り合った星座 |
エリダヌス座 くじら座 ちょうこくしつ座 ほうおう座 |
ろ座の概要
ろ座の特徴
ろ座を構成する星々はいずれも暗く、星がよく見える澄んだ空であっても、探すことは難しいでしょう。4等星のα(アルファ)星が、ろ座の中で一番明るい星です。
ろ座の星の並びも、α星とβ星を含む4つの星が互い違いに並んでいるだけです。この並びを見て、炉やかまどの姿を連想できる人は少ないのではないでしょうか。
ろ座の見つけ方
日本でろ座を見ることができる期間は11月から2月の間であり、20時南中は12月23日です。
ろ座は日本のどこからでも観測可能ですが、南の空の低い場所にある星座ですので、周囲に高い建物などのない環境で探すようにしましょう。
ろ座を発見するには、エリダヌス座を目印にすることをおすすめします。エリダヌス座は、オリオン座のつま先に輝く1等星リゲルのすぐそばを起点として、夜空を流れる大河です。
エリダヌス座の流れを辿っていくと、川が大きく曲がった中流付近に抱かれるように、ろ座があります。
全体的に暗く、形も曖昧なろ座を見つけるためには、観察力が必要となるでしょう。幸い、エリダヌス座は分かりやすい星座ですので、星図などを参考に注意深くろ座を探してみてくださいね。
ろ座の見どころ
α星
ろ座α(アルファ)星は、ろ座の中では最も明るく輝く星です。
α星を望遠鏡(6cm前後)で観察してみると、4等星の主星と7等星の伴星に分けることができます。
長いこと固有名のなかったろ座α星ですが、2017年に「ダリム(Dalim)」という呼び名が付けられました。ダリムはアラビア語で「ダチョウ」を意味します。
ろ座α星を含む周囲の星々は、その昔、炉ではなくダチョウの姿に例えられていたのです。
楕円銀河 NGC1316
NGC1316 © NASA,ESA,and The Hubble Heritage Team(STScI/AURA) / 出典:ESA/Hubble
ろ座α星から南(下)の方角を見ると、NGC1316という楕円銀河が確認できます。
NGC1316はもともと、ふたつの渦巻銀河がぶつかり合って構成されたと考えられています。その他にも、複数の銀河を飲み込みながら現在に至るという、なかなかドラマチックな銀河です。
「ろ座A」という別名も持つNGC1316の存在を確認するためには、口径20cm程度の望遠鏡が必要です。
ろ座の神話・伝説
ろ座は18世紀にフランスの天文学者ラカイユが設定した、新しい星座です。
そのため、ろ座にまつわる神話・伝説は伝わっていません。
おわりに
ろ座は、ラカイユがアントワーヌ・ラヴォアジエへの贈り物として設定した星座である、といわれています。
「近代化学の父」とも呼ばれるラボアジエは、フランスの天才化学者であり、ラカイユとも親交があった人物です。ラカイユは、ラボアジエの業績や才能を称えるために、科学実験用の炉を星座として夜空に上げたのかもしれませんね。
ラカイユの作った星座には、ろ座の他にも科学道具をモチーフとしたものがいくつかありますが、いずれも「星座らしくない」、「ロマンがない」、「こじつけっぽい」など、辛口な評価を受けがちです。
しかし「ろ座」は、ラカイユがラボアジエに抱いていたであろう尊敬や友情といった温かい心を、私たちに教えてくれているようです。
Special Thanks
「ろ座の見つけ方」に掲載している画像の背景の星図は、ToxsoftさまのStella Theater Proを使用して作成しました。
Toxsoft: https://www.toxsoft.com/
- 沼澤茂美・脇屋奈々代 著『星座の図鑑』(2017)
- pp.79-114, 誠文堂新光社.
- 長島晶裕/ORG 著『星座の神々 全天88星座の神話・伝承』(1999)
- p.224, 新紀元社.
- 国立天文台「星座名・星座略符一覧(星座名の50音順)」(2019)
- https://www.nao.ac.jp/new-info/constellation.html 参照:2019-7-3
- Astro Commons「星座境界線」(2016)
- http://astro.starfree.jp/commons/constellation/boundary.html 参照:2019-7-8