いて座の神話・伝説
いて座のモデルとなったのは、ギリシャ神話に登場するケンタウルス一族のキロン(ケイローン)です。
学問にも武術にも長けていたキロンには多くの教え子がいましたが、その教え子の一人ヘルクレスの放った矢で最期を迎えます。 キロンの死後、彼の素晴らしい才能を惜しんで大神ゼウスが夜空に上げ、いて座にしたと伝わっています。
いて座の神話・伝説
賢者キロン
ケンタウルスの一族はみな、上半身が人で下半身が馬の姿をしています。賢者キロン(ケイローン)もその一族のひとりでした。
本来ケンタウルス族は野蛮で粗暴な一族です。しかし太陽の神・アポロンから医学・音楽・占いを学び、月の神・アルテミスから武術・狩猟を学んだキロンは、あらゆる学術に長けている例外的な存在でした。その知識の豊富さは数々の王族が、子供をキロンに預け教えを乞うほどです。
教え子ヘルクレスのわがまま
ある日、キロンの教え子のヘルクレスが農村を荒らして回る大イノシシを捕まえることになりました。
大イノシシのいるエリュマントスの山の近くにケンタウルス族の住居があります。そこにある洞窟に住むポロスがヘルクレスを手厚くもてなしました。
ポロスに出してもらった焼いた肉を食べながらヘルクレスは思います。
「酒が飲みたい…」
ケンタウルス族には秘蔵の酒がある、という話を聞いていたヘルクレスはポロスに要求します。
「あれはケンタウルス族共有の銘酒なので、わたしの一存では開けられません」
ポロスははっきりと断りましたが、ヘルクレスはその酒を飲みたくて仕方がありません。乱暴に立ち上がり近くに置いていた矢の先をポロスに突きつけます。
「ゼウスの息子である俺が欲しいと言っている!出せ!!」
ヘルクレスは無理やり秘蔵の酒を開けさせてしまいました。
キロンの最期
その酒はとても香りが強く、銘酒が開いたことに他のケンタウルス族は気づきます。彼らはもみの木で武装してヘルクレスの元に集まってきました。
勇敢なケンタウルス族のふたりがヘルクレスに立ち向かいますが、相手は数々の試練を超えてきた英雄、敵うわけがありません。すぐに洞窟から逃げ出したふたりをヘルクレスは追います。
ふたりは死に物狂いで走り続け、とある洞窟の中に逃げ込みました。ヘルクレスは追い込んだとその奥に向かって自慢の矢を放ちます。
「キロン様!!」
洞窟の中から聞こえてきたのは狙い打ったふたりの悲鳴ではなく、師の名前を呼ぶ声でした。ヘルクレスが中に入ると師匠のキロンが倒れています。よく見ると膝をヘルクレスの矢が射抜いていました。この洞窟はキロンの住居だったのです。
「師匠!師匠!申し訳ありません!!お気を確かに!」
ヘルクレスはキロンに駆け寄り声をかけます。放った矢の先にはヒドラの猛毒が塗られていました。医術に長けたキロンでさえも解毒する術のないほどの毒です。
キロンは不死身のためにもがき苦しむだけで死ぬことはできません。こんな苦しみから解放してほしいとゼウスに願います。これを聞き入れたゼウスはキロンの不死身を解き、キロンの才能を惜しんで夜空に上げ星座にしました。
そして毒に苦しみ続けたキロンは、やっと安らかな眠りにつけるのでした…。
おはなしにまつわる星座
キロンの教え子たちの多くは、のちに有名な星座となっています。