カリストとアルカス
カリストはゼウスの子・アルカスを生む
森のニンフ(妖精)・カリストは月の女神・アルテミスに仕えていました。その姿はとても美しく、大神・ゼウスもその美しさに心惹かれるほどです。
ある日、ゼウスはアルテミスに化けてカリストに近づきました。主人の姿を前にカリストが変に思うこともありません。しかししばらくするとカリストが子供を身ごもってしまったのです。
アルテミスは純潔の女神でもあり、子供を宿したことを知ってカリストを森から追放してしまいました。さらにその子供の父親がゼウスであることを知ったゼウスの妻・ヘラが、怒りの矛先をカリストに向けます。
「わたしにはもうこの子しかいない…」
悲しみに暮れヘラに許しを請いながらも、カリストはゼウスの子供である息子・アルカスを生みました。
熊に変えられてしまうカリスト
仕える場所を失いゼウスの恩恵を受けることができなくても、カリストにはアルカスを育てなければならない使命があるのです。その姿をさらに憎く思ったヘラは、呪いでカリストの姿を大きな熊に変えてしまいました。
「こんな姿を人に見せられない…」
カリストは熊になってしまったショックと恥ずかしさで、隠れるように森の奥深くへと歩いて行ってしまいました。森の入り口で赤ん坊のアルカスが泣き叫んでいるのも気が付きません。
その後、アルカスは通りかかった狩人に拾われます。やさしい狩人の元ですくすく育ち、アルカス自身も立派な狩人になりました。
親子の再会
月日がたちアルカスが青年になり、いつもの森で獲物を探していた時のことです。近くの草むらから大きな熊が一頭現れました。熊はアルカスを見つけると大きく腕を広げ、叫びながら近づいてきます。
その熊は幼い時に別れた母・カリストだったのです。カリストはこの狩人が成長した息子・アルカスだとすぐに分かりました。ですがアルカスは母のことを覚えていませんし、その母が熊に姿を変えられたことも知りません。
喜びを抑えきれず両手で我が子を抱きしめたくて近づきますが、アルカスは大きな熊が襲ってきたと思って矢を構えました。知らないとは言え息子が母に矢を放ってしまいます。
それを天上から見ていたゼウスは、とっさに竜巻を起こしました。矢は風に乗り向きを変え、カリストとアルカスの間にゼウスが降り立ちます。一度は愛したカリストが、愛する息子の手で狩られてしまうなんて、ゼウスは見ていられなかったのです。
ゼウスはカリストの尾を掴み、力いっぱい空に向けて放り投げました。続けてアルカスの姿も小さな熊に変え、母と同じく尾を掴んで放り投げます。そしてそのままふたりは夜空の星となりました。
尾を掴んで投げたため、ふたりの尾は長く伸びてしまいました。ですがこれでもう親子が離れることなく、ずっとずっと一緒にいられるのです。
おはなしにまつわる星座
カリストとアルカスは、しっぽの長い熊の星座になりました。